
細胞培養について

細胞培養とは
生物の細胞を体外に取り出して人工的に体内に似せた環境の中で維持し、増やす技術です。
私達(ヒト)の細胞も細胞培養によって増やすことが可能です。細胞培養の歴史は長く、既に20世紀の初めにはある程度の技術は確立していました。
現在では、酵素でばらばらにした細胞を培養液に浸し、プラスティック製のフラスコや培養皿の中で平面状に増やしていく方法が一般的ですが、その他にも浮遊させたり球状にしたりするなど、細胞培養の方法には様々な種類が考案されています。
これらの方法に共通して重要なことは、温度や空気を細胞が増殖するのに適した条件に整えることと、培養液の組成(電解質やpH、糖、アミノ酸など)を厳密に管理することです。
また、細胞が増える条件では細菌も同様に増えやすいため、培養中の細胞への細菌の混入を避けるために、クリーンルームやクリーンベンチ、安全キャビネットなど特別に清浄度を保った環境の中で細胞を清潔に操作する必要があります。
現在に至るまで培養液への添加剤や新しい器材の開発など先人のたゆまぬ努力により、細胞培養は以前より大幅に進歩し、安全かつ確実に効率よく行えるようになりました。

幹細胞の培養とは
ヒトの間葉系幹細胞は通常、体内ではあまり増えも減りもしない、いわば一定の状態にあるとされていますが、一度培養の環境に置かれると急激に増殖し始めます。この性質を利用すれば、1ヶ月程度の間に数百万倍から数千万倍まで細胞数を増やすことが可能です。
一般的に1回の再生医療に用いる幹細胞の数は数千万個から数億個ですので、細胞培養の技術を用いれば、治療において必要な数の細胞を十分に得ることが出来るのです。また、細胞培養によって増やした幹細胞は凍結保存が可能です。
臓器など大きな組織は凍結すると機能を失いますが、ばらばらにした細胞は凍結解凍後も細胞としての機能を維持することができます。将来、再生医療が必要になるときに備えて自分の幹細胞を保存するときなどに用いられています。

細胞培養の安全性
細胞培養はこのように大変有益な技術ですが、幹細胞を体外に取り出して増やすと性質が変わってしまう、例えばがん細胞になるかもしれない、と不安に思われるかもしれません。
しかし、過剰な心配はいりません。ヒトの間葉系幹細胞は、培養をしたとしても遺伝子操作などを意図しない限り滅多なことでは元の性質を失わず、がん細胞など危険な細胞にはならないことが分かっています。とはいえ、培養環境の調整や衛生状態の管理を怠ると細胞が満足に増殖しないばかりか、細菌が混入して治療に用いることができない状態になってしまうこともあります。
したがって、培養した幹細胞を臨床で用いる場合は、正しい手技で培養を行い、細胞の形態や増殖能、細菌の混入の有無などを検査して、表面マーカーや分化能(幹細胞としての能力)を定期的に評価することで、基準を満たした細胞だけを用いる必要があります。そこで、日本の再生医療に関する法制度では細胞培養を行う施設の設備や人員、技術を厳格に審査して、安全面において問題の無い施設にだけ再生医療の研究や治療の実施に関わることを認めています。

幹細胞培養の流れ


細胞治療の流れ
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診察・脂肪採取・採血
医師が診察により治療適応と判断した場合、脂肪採取及び採血を日帰りで行います。
脂肪は通常、局所麻酔により腹部(お臍の横の皮下)から専用の生検針を用いて採取します。傷は小さいため、当日からシャワーを浴びることができます。 -
TOPs細胞の培養
採取した脂肪と血液をすみやかに細胞培養加工施設へ輸送し、約1ヶ月かけてTOPs細胞を培養します。TOPs細胞は治療日に合わせて必要数まで培養され、適切な条件下で医療機関へ輸送されます。
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TOPs細胞の投与
TOPs細胞は、凍結ではない、生きた状態で治療に用います。顔や膝関節などの局所に対しては注射で投与し、神経疾患や痛みなどの治療においては全身に点滴で投与します。治療は通常、日帰りで行うことができます。多くの場合、治療当日から普段通りに過ごすことができます。
※治療適応の基準や治療の流れは、医療機関ごとに定められた治療計画によって異なりますので、
詳細については治療を行う医療機関にお問い合わせください。