学術報告
変形性膝関節症
Baseline magnetic resonance imaging findings associated with short-term clinical outcomes after intraarticular administration of autologous adipose-derived stem cells for knee osteoarthritis
変形性膝関節症に対する自家脂肪由来幹細胞の関節内投与後の短期成績に関連する治療前MRI所見
Ryota Yamagami, Tomohiro Terao, Taro Kasai, Hisatoshi Ishikura, Masaki Hatano, Junya Higuchi, Shuichi Yoshida, Yusuke Arino, Ryo Murakami, Masashi Sato, Yuji Maenohara, Yuma Makii, Tokio Matsuzaki, Keita Inoue, Shinsaku Tsuji, Sakae Tanaka, Taku Saito
Regenerative Therapy 28(2025):227-234. DOI: 10.1016/j.reth.2024.12.012
研究概要
- 対象:保存療法では症状の改善が見られなかった内反型変形性膝関節症患者149名
- 治療:自家脂肪由来幹細胞を対象関節内へ1回投与した。
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評価方法:
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投与前のMRI所見や患者背景(年齢、性別、body mass index)と投与後の患者立脚型アウトカム
(KOOS※)および治療の奏効率(OMERACT-OARSIのresponder rate)との関係を評価した。 -
KOOSスコアの経時的変化を、治療前、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後に評価した。
※KOOS:Knee Osteoarthritis Outcome Score
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投与前のMRI所見や患者背景(年齢、性別、body mass index)と投与後の患者立脚型アウトカム
結果
- 解析対象患者全体の評価ではKOOSの全てのサブスケール(Pain, Symptoms, ADL, Sport and Recreation, QOL)において治療前と比較して治療後6ヶ月時点で有意にスコアが改善し、治療後12ヶ月時点まで維持された。
- MRI所見に基づく変形性膝関節症患者の重症度分類において、軽度~中等度の患者は重度の患者と比較して奏効率が有意に高かった(6ヶ月時点での奏効率:軽度・中等度65.4%、重度35.2%)。
- 患者背景としては、若年の患者ほど奏効率が有意に高かった(OR:1.04;P=0.042)。
- その他のMRI所見においては、大腿骨内側顆のbone marrow lesion(BML, 骨髄病変)が小さい、内側半月板の逸脱が少ない患者で奏効率が有意に高かった。
結論
変形性膝関節症に対する自家脂肪由来幹細胞治療は、変形性膝関節症の重症度、大腿骨内側顆のBML、内側半月板逸脱の程度といったMRI所見や、若年であることが治療奏効率と関連していることが示された。
また、本治療は短期的な臨床評価において患者立脚型アウトカムを有意に改善させた。
変形性股関節症
Intra-articular administration of autologous adipose-derived stem cells in hip osteoarthritis: Longitudinal treatment trajectories and prognostic factors.
変形性股関節症における自己脂肪由来幹細胞の関節内投与: 治療経過の縦断的軌跡と予後因子の検討
Masaki Hatano, Hisatoshi Ishikura, Tomohiro Terao, Taro Kasai, Ryota Yamagami, Junya Higuchi, Shuichi Yoshida, Yusuke Arino, Ryo Murakami, Masashi Sato, Yuji Maenohara, Yuma Makii, Tokio Matsuzaki, Keita Inoue, Shinsaku Tsuji, Sakae Tanaka, Taku Saito
Regenerative Therapy 29 (2025) 217-226 DOI: 10.1016/j.reth.2025.03.01
研究概要
- 対象:変形性股関節症(OA)患者129名(168股関節)
- 治療:自己脂肪由来幹細胞(ASCs)を股関節内に単回投与した。
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評価方法:
- JHEQ(日本整形外科学会股関節疾患評価質問票)スコアを治療前、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月時点で評価した
- JHEQスコアの経時的変化に関して混合効果モデルを用いて解析し、全体及びOA重症度別(K–L分類)のサブグループ間で比較した。
- 患者背景、OA重症度、治療前のMRI所見を含む混合効果モデルを用いて、治療効果に関連する予測因子を探索した。
結果
- 解析対象者全体では、JHEQスコアは治療前と比較し治療後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の各時点で有意に上昇した。混合効果モデルにより推定された治療後6ヶ月時点でのJHEQスコアの予測変化量は+10.6点(95% CI: 8.3–12.8)であった。
- 治療後JHEQスコアに対して、OA重症度による効果修飾がみられた(P = 0.016)。
- 治療効果に関連する良好な予後因子として中等度OA(P=0.028)及び女性(P=0.025)が、不良な予後因子として大腿骨頭円靭帯損傷(P=0.011)が特定された。
結論
変形性股関節症に対するASCs治療は、短期的な患者立脚型アウトカムを上昇させ、OAの重症度によって治療効果が異なる可能性を示した。治療効果に関連する良好な予後因子として女性および中等度のOAが、不良な予後因子として大腿骨頭円靭帯損傷が示唆された。
細胞外小胞
Aging and cell expansion enhance microRNA diversity in small extracellular vesicles produced from human adipose-derived stem cells
加齢と細胞増殖によりヒト脂肪由来幹細胞が産生するsEV中のmicroRNAが多様化する
Toshiya Tsubaki, Ryota Chijimatsu, Taiga Takeda, Maki Abe, Takahiro Ochiya, Shinsaku Tsuji, Keita Inoue, Tokio Matsuzaki, Yasuhide Iwanaga, Yasunori Omata, Sakae Tanaka, Taku Saito
Cytotechnology. 77, 15 (2025). DOI: 10.1007/s10616-024-00675-6
研究概要
背景
- 脂肪由来間葉系幹細胞(adipose derived stem cell, ASC)とそれらが分泌する細胞外小胞(small extracellular vesicle, sEV)※1は再生医療への応用が期待されている。
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sEVs中のマイクロRNA(miRNA)※2はASCの状態に依存して変化するが、加齢や長期培養(持続的な細胞増殖)
※3がmiRNAプロファイルに与える影響は不明な点が多い。
方法
- 対象:20代と70-80代の各3名のASCとそのsEV
- 処置:ASCを継代培養し、5・10・15継代目で評価
- 評価1:ASCの分化能※4および増殖能
- 評価2:ASCのRNA-sequence解析※5
- 評価3:sEVのsmall RNA-sequence解析※6
結果
- 培養が進むに伴い、ASCsの増殖能および脂肪・軟骨分化能が低下し、特に高齢ドナー由来のASCsで顕著であった。
- 幹細胞性に関わる遺伝子の発現は加齢および長期培養で低下したが、長期培養の影響がより顕著であった。
- 幹細胞性に関わる遺伝子群の発現低下と、酸化的リン酸化など代謝関連の遺伝子群の発現亢進が特徴的であった。
- small RNA-seqの解析により、sEVs中のmiRNAは加齢および長期培養によって多様化することが判明した。
- 変化したmiRNAの標的遺伝子の機能予測から、幹細胞性や組織恒常性に関連するシグナル経路が抽出された。
- 様々な疾患関連遺伝子との関連解析により、各sEVsが異なる疾患に対し、異なる影響を与えることが示唆された。
結論
加齢と細胞増殖はASCsの幹細胞特性を変化させ、sEVs中のmiRNAプロファイルの多様性を増加させた。臨床応用に向けて疾患ごとに最適化されたASCの調製が必要であることが示唆された。
- 細胞が分泌する小胞のうち、直径が200 nm未満のもの(International Society for Extracellular Vesiclesの定義)。核酸やタンパク質、脂質などが含まれる。
- RNAの中でも20塩基前後の短鎖RNA。それ自体はタンパク質に翻訳されず、遺伝子発現を制御することで様々な生命現象に関与する。
- 生体から採取した細胞には増殖限界があり、最終的に細胞周期が停止し、細胞老化に至る。
- ASCは骨、軟骨、脂肪に分化する能力を持つとされており、その能力を評価した。
- 細胞内で発現している遺伝子を網羅的に解析する手法。
- miRNAなどのsmall RNAに特化したRNA-seq解析手法。
項目
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幹細胞治療
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幹細胞とは
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幹細胞を用いた再生医療
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細胞
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導入施設